「体や心に、寄り添うお店に」 ふんわり糀らぼ 山澤 一恵さん

2018年7月にオープンした「ふんわりこうじらぼ」は、札幌市内ではめずらしいこうじ専門店だ。店内では糀を使ったパンやドリンク、料理が楽しめるほか、奥のイートインスペースで、のんびり過ごすこともできる。筆者が店を訪ねた時、レジが一番近いイスに腰を掛けて、店主と会話を楽しむ常連女性客の姿があった。女性客が帰ったあと、店主の山澤一恵ひとえさんは「この席が、一番人気の席なんですよ」と穏やかに微笑む。お客さんの楽しみは、糀パンや糀ドリンクを楽しむだけではないようだ。

[札幌市豊平区の糀専門店、ふんわり糀らぼ]

「うちはパン屋さんだと思われることもありますが、糀の専門店なんです。だから、パンだけじゃなくて、糀を使った料理やお惣菜、ドリンク、スイーツを提供しています。糀で色々なものを作るから、店名に『らぼ』といれました」。

 

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入口すぐのパンコーナーには、砂糖や卵、乳製品不使用の食パンや、メロンパン、豆乳を使ったクリームパンなど約40種類がずらり。ショーケースの中には自家製のお惣菜や、お豆腐を使ったガトーショコラやティラミス、塩糀やしょうゆ糀まである。ラインナップや商品説明のPOPを見ただけで、「体にやさしいものを食べて欲しい」という山澤さんの思いが伝わる。

 

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オーナーの山澤さんは中標津町出身。小学校高学年から高校卒業まで幌加内町で過ごした。「将来は人の役に立てる仕事がしたい」と看護師を志し、高校卒業後は名寄市内の看護学校へ進学した。

卒業後は札幌市内の病院の小児科で勤務。看護師として医療に携わる日々を送りながら結婚。夫の転勤もあり、道内外の様々な病院や診療科で十数年経験を積んだ。

仕事に打ち込む一方で、病気が原因で寝たきりになってしまう患者さんも目の当たりにしてきた。次第に、「病気にならない体づくり」の大切さを感じるようになったという。

「平均寿命と健康寿命は、約10年差があるといわれているんです。人生最後の10年間は介護が必要な場合が多いですが、その年月をより健康に過ごしてもらうために、自分ができることをしたいと思うようになりました」。

2014年春に病院を退職。病気の予防につながる活動を模索し始めた。

[自分なりの「看護」を求めて]

「自分が伝えられる『病気の予防』ってなんだろうと考えて、カフェなどのスペースを借りて『健康講座』をすることを思い立ちました。講座は、お母さん向けに救急の子どもの対処方法や、年配の方向けに認知症予防などについてお話をしました」。

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講座のチラシや資料はすべて手作り。チラシは飲食店に配りに行ったり、マンションにポスティングをして集客につなげたという。

「これがすごく大変でした(笑)。でも、何回か講座をしてみて、反応はとても良かったです。一方で、健康に対して意識が高い方が多く、それ以外の方にも関心を持ってもらう方法も考えなければと思いました」。

講座をしながら、いつかは健康をテーマにしたコミュニティカフェをしたいと考えるようになったという山澤さん。具体的なイメージが浮かばなかったが、「何かのヒントになれば」との思いで参加した、札幌市主催のソーシャルビジネスセミナーが転機となった。

同セミナーは、社会福祉関連で事業をしたい人向けに開催されたもので、社会福祉に興味がある人達が集まっていた。山澤さんが「病気予防につながるようなコミュニティカフェがしたい」と話すと、賛同してくれる人が多く、励まされたという。

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「はじめは、具体的な健康をテーマにしたカフェのイメージが浮かびませんでしたが、セミナーの仲間と、『体に良い糀を使ってカフェができたら楽しそうだね』という話になり、気が付いたらお店をはじめる方向に、思いがどんどん膨らんでいきました。米や味噌として日本人にとって馴染みの深い糀なら、食生活に取り入れやすいし、栄養もたくさんある。お腹にも優しいから年配の方でも飲めるし、アルコールが入ってないから子供でも飲める。老若男女、年代問わず病気予防にもつながると思ったんです」。

当時は糀について何も知らなかったという山澤さん。「糀」と書かれてある本は片っ端から読んだという。札幌市近隣の酒造や、発酵食の町ともいわれる金沢の店もめぐって勉強を重ね、「発酵食スペシャリスト」の資格も取得した。また、飲食店で働きながら経営についても学び、物件も探し続けた。

[開店準備と試行錯誤の日々]

2018年の冬、「豊平区にパン屋さんの物件がある」と知り合いの建築士さんが連絡をくれたのをきっかけに、描いていた夢が一気に動き出した。

お店はまだパン屋さんで、一ヶ月後に閉店することが決まっていた。

「パンを焼く道具も揃っていて、広さも魅力でした。ここなら、パンをメインにした糀のお店ができるし、お客さんがのんびりできるイートインスペースも作れると思ったんです」。

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改装前の店舗内装。イートインスペースやパンのショーケースは手作り。

オープンまでの約5ヵ月間は寝る間もないほど忙しい日々だった。前のパン屋が閉店するまでの一ヶ月間は、当時の店主に頼み込んで、朝一でパンを焼く機械の使い方や仕込みの様子を、メモを取りながら覚えた。そのあとは、家でメニュー開発。当初は糀を手作りすることまでは考えていなかったが、メニューに使用する糀は大量で、仕入れが難しいと判断。「それなら自分で」と決めたという。

「糀づくりは、完成までに4,5日ぐらいかかります。温度や湿度によって糀の菌が繁殖しなかったりするので、その管理が難しいです。失敗した時は、これが原因かなあ?って思うところを改善して、結果、変わらなかったり(笑)。それでも少しずつ変えていって、うまくできた時は凄くホッとします。その日によって温度や湿度が変わるので、今でも毎回試行錯誤しながら作っています」。

手作りの糀は4㎏の米を洗って水につけたあと、じっくりと蒸し、種麹たねこうじを振りかける。それから布に包んで保温をし、乾燥しないように注意しながら32℃~36℃を保つ。保温中、温度が高くなり過ぎると糀菌が死んでしまうため、手でほぐしながら空気を行き渡らせて、菌の繁殖を促進させる。それから約1日かけて保温と手入れを繰り返すと、栗のような香りが出て、菌糸が伸び、米同士がくっついて板状になっていく。糀づくりでは、この工程を毎週行っているという。

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「糀って、『米』に『花』って書くんです。その名の通り、糀はお米に白い花が咲いたような形をしているんですよ。もうひとつの『麹』は中国から伝えられたもので、日本の糀とは異なります。糀は日本固有の菌で、国菌にも指定されているほどなんです。消化酵素が多く含まれていて『飲む点滴』ともいわれています。糀には、ビタミンをつくる働きまであるんですよ」。

お店は2018年7月にオープンして以来、近所のお客さんを中心に賑わっている。売れ筋商品は、糀の食パンと生糀ドリンクだ。

 

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紅糀食パン(1斤330円)と糀食パン(1斤300円)は、砂糖、卵、乳製品不使用で、アレルギーの方や小さな子どもがいるお母さん、健康を気遣う方に人気だ。好みの厚さにカットもしてくれる。

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生糀ドリンク(300円~)は加熱処理をしていないので、酵素も生きた状態で飲める。優しい甘さが人気の糀ドリンクは、そのままでも優しい味わいだが、ラズベリーやキウイといったフルーツ味にすることもできる。自分の好きな味わいを探すのも楽しい。

[この場所が、地域の憩いの場となれるように]

 

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店をオープンしてから約1年。これからどんなお店にしていきたいかを尋ねると、こう語ってくれた。

「ここのエリアはひとり暮らしをされている方も多くて、食事をしたりパンを買えるだけじゃなくて、ここに来たらお話できる。そんな地域の憩いの場でありたいと思っています。ここに来たら、ちょっと楽しいことがある。心が安らぐ。そんな風に思ってもらえるお店づくりをしていきたいです」。

現在はお母さんやパートさんが週に数回手伝いに来てくれている。それでもほぼ毎朝、3時~4時には店に来て仕込みをしているという。

仕込みや季節のメニュー開発、クッキーのラベルづくりといった作業もひとりでこなしている山澤さん。「なかなか手が回らなくて、なんでお店やったんだろうと、ふと思う時もありますよ(笑)」。そう言いながらも、表情はとびきり明るい。

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「今後は、店のイートインスペースを使って、子ども向けのパン教室を開いたり、店で出している塩糀やしょうゆ糀の作り方や使い方も紹介できればと思っています。今まで札幌市内で開催していたママさん向け、シニア向けの健康講座もこの場所で開催していきたいです」。

楽しそうに語る山澤さんの夢は尽きない。

[ふんわり糀らぼ]

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住所:札幌市豊平区豊平3条8丁目1-1 ハイム亜庭1階

アクセス:札幌市営地下鉄 東豊線「学園前」駅から徒歩10分 / 東西線「東札幌」駅から徒歩15分 ※36号線通りにある豊平交番の斜め後ろです。

ホームページ:https://r.goope.jp/funwari-kouji

電話番号:011-827-9933

営業時間:10:00 – 18:00 (LO:17:30)

定休日:水曜日・日曜日

駐車場:隣にコインパーキングあり。1000円以上お買い上げで30分無料券発行。

その他:イートインスペースは1時間500円でレンタル可。

インタビュアー / ライター  加賀夕理

 

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