「山と旅の楽しさを、大雪山のふもとから」 層雲峡ホステル オーナー 志水 陽平さん

北海道の屋根とも呼ばれる大雪山国立公園。広大な自然のふもとにある上川町の層雲峡は、観光やアウトドアの拠点として国内外から多くの人が訪れる。そんな層雲峡で、山の宿「層雲峡ホステル」を経営するのが志水陽平さん。大学卒業後に旭川市内の道庁で勤務するも、ゲストハウス経営に惹かれて退職。旭川市内のゲストハウスの運営を1年間経験した後、層雲峡で夏と秋限定営業の宿を開いた。今回、これまでの道のりと、仕事への思いを伺った。

登山と旅が今の原点

志水さんは旭川市出身の地元育ち。小さいころは、父親に連れられてよく山に登った。層雲峡の黒岳も、小さなころに登った山のひとつだ。小学校高学年からは登山よりもバスケットボールに没頭。高校卒業後は旭川市内の教育大学へ。在学中、悩んでいた時にふと山に登りたくなり、再び層雲峡の黒岳へ登った。久しぶりの登山は心が晴れた。

「人と違うことがしたい。そう思って、バイトや部活よりも登山や旅に行くようになりました」

20歳の時、はじめてのひとり海外旅行でヨーロッパを訪ねた。イタリアからドイツ、フランスを電車で巡りながら、旅の最中は、街中にあるインフォメーションで安く宿泊できるゲストハウスを探した。

「ドミトリー(相部屋)が特に安いんですけど、『知らない人と海外の宿で相部屋なんて』って当時は思っていました。でも、実際に泊まってみたら全然そんなことなくて、凄く楽しかった。ゲストハウスを通じて、国内外に友人がたくさんできました」

―景色も、人との出会いも楽しい。

そう感じて以来、年に数回は国内外問わず、気になる場所に足を運んだ。知れば知るほど、旅は欠かせないものとなっていった。

ボランティアで、ゲストハウスの楽しさを知る

大学卒業後は、旭川市内の道庁に勤務し、主に山岳環境を整備する仕事に携わった。勤務地は旭川市内だったが、仕事の関係で層雲峡の黒岳も度々登った。年に数回は旅にも行き、職場でも「今年はどこへ行くの?」と聞かれるほどになっていた。

道庁に勤めて半年が経ったころ、ひとつの転機が訪れた。地元旭川に「宿レトロハウス銀座旭川」というゲストハウスが新しくオープンし、掃除などを手伝うボランティアスタッフを募集していた。

旅先では必ずゲストハウスに泊まっていたという志水さん。「今度は宿を内側から見てみたい」という思いが強くなり、迷わずゲストハウスの門を叩いた。

それから、ボランティアスタッフとして、仕事終わりにゲストハウスを手伝うように。掃除や調理補助などを行いながら、ゲストと近い距離で接した。

「やってみて、やっぱりいいなあって。ゲストハウスは色んな人の人生を覗き見できるんですよ。それが面白くて。国や職業も違うし、ひとつの場所にいながらもたくさんの場所の話が聞けて退屈しないんです」。

旅やゲストハウスと関わりが深くなるにつれ、自然と「いずれは自分もゲストハウスを経営したい」と思うように。25歳の春に、「挑戦して、だめならまた就活すれば良い」と決意し、公務員を退職。新たな道へと歩み始めた。

日本中を知るために自転車旅

退職してから真っ先にしたのは、自転車での日本列島横断だった。北海道から沖縄まで、約7200㎞あまりを9ヶ月かけて走り切った。

「自転車旅をしたのは、日本中のゲストハウスを知りたかったのと、日本のことを知らないと海外の人に日本のことを話せない。逆に知っていれば、話もできて楽しいと思ったからです」

旅の最中は、東京都内のゲストハウスや、長野県の北アルプスの登山者の拠点である山小屋で短期間働いた。山小屋では、登山者目線で山道を直したり、道しるべを付けるなど、山の宿ならではの知識も学んだ。

「その土地の特徴や、ゲストハウスの状況、働いている人たちの考えは、実際に行って見て、聞かないと分からない」と振り返る。自転車を漕ぎながら、経営の構想を練ってはメモを取る日々を送った。

当時、ゲストハウスを経営する場所は特に決めていなかったという志水さん。気付けば会う人たちに「今度は北海道に来てください」と勧めていた。旅をしながら自然と「ゲストハウスは故郷で」と思うようになった。

旭川のゲストハウス運営

旅を終えて旭川に戻ると、かつてボランティアスタッフをしていたゲストハウスのオーナーが「うちの運営をしてみないか」と声を掛けてくれた。経営の経験を積みたい思いもあり、すぐに気持ちは固まったという。

「振り返れば、これが踏み出した大きな一歩でした。勢いよく『やります』って答えたけど、当時の宿で使えるお金は数千円しかなかったんです(笑)。電気代も払えないんじゃないかって不安でしたけど、もう後戻りできないですよね(笑)。今までは働けばお給料が貰えたけど、これからは自分で稼がないといけない。そう思った時に、とにかくやれることは全部やろうと腹を決めました」

運営で、すぐに着手したのは設備や内装を整えることだった。壁の立て直しや全体の内装を白に統一するための塗装もすべて手作業。より多くの人が宿泊できるよう、2段ベッドも作った。仲間に手伝ってもらいながら、朝方まで作業を続けた。内装が完成して、ゲストハウスをオープンできた時は、ほっと胸を撫でおろしたという。

「この経験がなかったら、今ゲストハウスのオーナーにはなっていなかったかもしれません。食えるか食えないかの状況の中、とにかく『どうしたら来てくれるか』をひたすら考えてやってきました」

初めてのゲストハウス運営は、現在の経営の糧となった。運営した年の夏は連日満室で、ゲストとの距離も近い空間を作り上げた。

新しいステージ 層雲峡ホステルへ

「層雲峡でゲストハウスをやらないか?」

旭川のゲストハウスを運営して1年が経ったころ、道庁時代に知り合った上川町の観光協会の方から、そう声を掛けられた。「その時は『想像できないなあ』と思ってたんですけど、その後にも同じ物件を勧めてくれた方がいて。これはもしかしてチャンスなのかな?と思い始めました」

上川駅から車で約30分。大雪山のふもとにある層雲峡には、長い間「層雲峡ユースホステル」というゲストハウスが親しまれていたが、建物の老朽化と管理人さんの引退で平成27年に閉館。以来、空き物件となっていた。

「内装を見に行くと、使われてきたキッチン用具や談話室の机、イスなどがそのまま残っていました。長くいろいろな旅人に使われてきた物たちを見て、なんだかこれは無くしちゃダメだなと思いましたし、掃除をして、改装できるところをすれば、ここでゲストハウスが経営できると思ったんです」

それから、現在の層雲峡ホステルの経営へ向けて舵を切った志水さん。オープンに向けた改装では、ひとつ問題点があった。ライフラインのひとつの巨大なボイラーが古く、お湯が出ない状況だった。

「ボイラーを直すために50万円ほど工面しなければならなかったので、10日間クラウドファンティングをしました。そしたら、自転車旅や、海外で会った人たちが支援してくれて、70万円集まりました。支援してくれた人の半分以上は自分の知らない方達でした。中には『ユースホステル復活するんだ!応援してます!』ってメッセージをくれた方もいて…。層雲峡ユースホステルさんが続けてきた流れを、大事にしたいと改めて感じました」。

ほっと一息つける、アットホームなゲストハウスに

層雲峡ホステルは、2018年6月にオープン。登山口でもある黒岳ロープウェイまでのアクセスはゲストハウスから徒歩5分。黒岳への登山はもちろん、自然を散策するのも良いし、層雲峡はサイクリングやツーリングも楽しめるスポットでもある。周囲には日帰り温泉が楽しめる施設も多くあり、下山した後に浸かる温泉も格別だ。

層雲峡ホステルの部屋は、男女別ドミトリールームと個室から選べる。要予約で食べられる朝食のおにぎり弁当(400円)と夕食のカレー(800円)は、ゲストからの人気も高く、自炊用キッチンには調味料や調理器具も揃っていて、自由に使うことができる。

志水さんがゲストハウス経営でこだわっているのは、どこか懐かしさが漂うアットホーム感だ。

「例えるなら、お洒落なカフェのコーヒーよりも、ばあちゃん家で飲むお茶みたいな(笑)。きれいすぎる宿は、僕にとってはなかったんです。古い方が肩肘張らない。居心地が良くて、ゆったりした宿にしたいんです」

「登山」と聞くと、初心者であればあるほどハードルが高く感じる。そんな人こそ、宿に立ち寄って欲しいと志水さんは語る。

「いずれは僕がガイドをして、必要な装備やどのくらい登るとか、そういった情報もひとつずつ、お伝えしたいです。層雲峡の黒岳は、海外に行くよりも近くて、海外の方が見に来るような景色です。でも、まだ知らない方も多くて、それが勿体ないと思っています。色々な方に見てほしい。その中でもリスクはあるので、そこはしっかりお伝えして、自然をめいっぱい感じて欲しい。晴れた日に一緒に山へ登ったり、山道を歩いて、最後にコーヒーやお酒をふもとで飲む(笑)。そんなことがしたいですね」

楽しそうに語る志水さん。話していてほっと和む人柄も、層雲峡ホステルの魅力のひとつだと感じた。

【層雲峡ホステル】

住所:北海道上川郡上川町層雲峡(朝陽亭さん横)

アクセス

  • JR上川駅から「層雲峡行バス」約35分→層雲峡バスセンター下車→徒歩7分
  • JR旭川駅前7番乗り場から「層雲峡行バス」(上川駅経由)約2時間→層雲峡バスセンター下車→徒歩7分
  • 車で旭川から層雲峡まで約40分

ホームページ:https://www.sounkyo-hostel.com/

電話番号:080-2862-4080

営業期間:6月中旬~10月中旬

インタビュアー / ライター 加賀夕理

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