「移住生活で、夢の挑戦続ける」 カミカワーク フードプロデューサー / キヌバリコーヒー 絹張 蝦夷丸さん

国内屈指の自然の宝庫ともいえる「大雪山国立公園」。広大な公園の北部に位置する上川町では、現在、自然環境を活かした新しい働き方「カミカワーク」に取り組んでいる。中でも注目すべき点は、将来の起業に向けて経験を積みながら働ける、地域おこし協力隊の職種があることだ。その職種に就くために、札幌市から上川町に家族で移住したのが、絹張きぬばり蝦夷丸えぞまるさん。2019年7月にオープンしたばかりの「大雪かみかわ ヌクモ」内のカフェで働きながら、町内で自家焙煎コーヒー店の開業を目指している。今回、移住までの経緯と仕事のやりがいについて話を伺った。

アウトドアや旅を通じて視野広がる

絹張さんは湧別町出身。地元のアウトドアクラブに所属していた父親の影響で、幼いころから家族でキャンプやカヌー、登山などアウトドアに触れた。小学4年生からはバスケットにのめり込み、スポーツ推薦で札幌市内の高校に進学した。その後は同市内の大学の経営学部に進学し、アパレルのアルバイトをしながら学業に励んだ。

大学では2回旅を経験した。大学2年の時には友人と北海道から沖縄までヒッチハイク旅をした。同じ友人と大学3年の時にマレーシアに10日間滞在し、現地のゲストハウスにも泊まった。スタッフと楽しく過ごして、ゲストハウスの仕事に興味がわいたという。旅を終えた後は市内のゲストハウスの求人を探し、半年間スタッフとして働いた。

「働いている最中は、色んな旅人と出会って、世界は広くてたくさんの価値観があると感じました。英語はカタコトしか話せませんでしたが、ゲストの身振り手振り、表情や視線を観察して、何を欲しているのかを観察するように心がけました」

その後、大学5年の春から、札幌市内に新規オープンするゲストハウスの改装を手伝ったことがきっかけで、そのゲストハウスへの就職が決まった。以来5年間、ゲストハウスのマネージャーとして、予約管理やベッドメイク、チェックイン/アウトの対応などの宿業務と、カフェ業務の両方を行った。

ゲストハウスの思い出と出合い

ゲストハウスで働いていた期間、特に心に残っているエピソードがある。

「働いて2年ほど経った頃、日本人女性のお客さんがチェックアウトのときに手紙をくれたんです。その女性が札幌に来たのは、亡くなった大切な友人の日記帳を受け取るためで、当日の朝まで受け取りに行くのを悩んでいたそうなんです。でも僕が『いってらっしゃい』と声を掛けて『受け取りに行こうと思えました』と書いてくれていて、そういうことが起きていたんだなと思って…。自分では気付かないけど、何気ない言葉でも、その人にとってターニングポイントにもなり得るんだなと思いました」

嬉しい気持ちの反面、気を付けようと心に留めたという絹張さん。自分にとって日常の仕事でも、旅に来ている人にとっては大切な日になることを改めて感じた出来事だった。

ゲストハウスで働いていた時には、今につながる出合いも多くあった。そのひとつがコーヒーだ。

「勤めていたゲストハウスはカフェも併設していたので、働いてからコーヒーについて改めて詳しく知ったんです。色んな種類があって、抽出で味が変わる。そういった奥深さを知りました」

仕事を通じてコーヒーの淹れ方を変えたり、試行錯誤をするのが楽しくなっていった。それから淹れ方と同様、コーヒーの味づくりの重要な過程である「焙煎」に興味を持つようになったという。

目指したのは、酸っぱくなくて苦くないコーヒー

「好きな味わいのコーヒーを探している時、あるお店で飲んだエチオピアのコーヒーがとても美味しかったんです。調べてみたら、その店で出していたエチオピアのコーヒーは『ナチュラル』のコーヒー豆でした。ナチュラルってこんなに果実感があるんだなあと思って」

コーヒー豆は生産国によって味わいが異なるが、精製方法によっても味が変わる。精製とは、コーヒーチェリーからコーヒー豆となる種子を取りだす工程のことで、水で種子を洗うウォッシュド(水洗式)とコーヒーチェリーをそのまま乾燥させるナチュラル(非水洗式)などがある。まろやかで飲みやすい味になりやすいウォッシュドに比べ、ナチュラルは果肉と一緒に乾燥させるので甘味を感じやすくなる。

「そのコーヒー豆がすごく好きで、同じ生豆を買って同じように焙煎していました。焙煎機はゲストハウスにあったので、それを使わせてもらって。でも、自分が焙煎すると全然美味しくなくて、誰かに言われてデータを取るようにしたんです。時間と温度を計って、表を作ってグラフにして」

毎回焙煎したデータを印刷しては、チェックをし、細かい温度の上がり具合を検証して味づくりをしていった絹張さん。コーヒーと向き合ううちに、いつかは自家焙煎コーヒー店をオープンさせたいと自然に思うようになった。

その先駆けとして、2017年秋には初めてデザイン会社のイベントに「キヌバリコーヒー」として出店。以来、実店舗は持たずに音楽イベントや展示会、トークイベントなどに出店をしたり、ネット販売で自分が焙煎したコーヒー豆の販売を行っている。

「現在イベントなどで展開しているコーヒー店の名前は『キヌバリコーヒー』です。決めているのは、『酸っぱくなくて苦くないコーヒー』を焙煎すること。そうなると焙煎の度合いは変えられません。だから、コーヒー豆の産地で味の違いを出すしかない。でも、産地の違いはプロの人じゃないとなかなか感じ取れないと思います。逆に精製方法の違いはすごくハッキリしているので、『あ、このコーヒーなんか違うな』って思ってもらいやすいんです。だからキヌバリコーヒーではナチュラル製法のコーヒー豆だけを焙煎します。あと好きなんですよ、ナチュラルが。豆によっては虫歯になるんじゃないの?って思うぐらい甘いんです(笑)」

夢を追いながら、上川で地域おこし

カミカワークプロジェクトとは、町全体で自然環境を活かした新しい働き方を考える取り組みのこと。そのプロジェクトの中に、「カミカワークプロデューサー」が職種として設けられている。「フードプロデューサー」、「アウトドアプロデューサー」、「ランプワークプロデューサー」、「コミュニティプロデューサー」の4職種で、それぞれが違う立ち位置で地域おこし協力隊として上川の働き方や、可能性を追求していく。

中でも絹張さんが興味を持ったのは、「フードプロデューサー」。2019年7月にオープンした「大雪かみかわ ヌクモ」でのカフェ運営業務全般や、「食」を通じて上川町を盛り上げるのが業務内容だ。カフェには焙煎機も導入されると知り、夢である自家焙煎のコーヒー店開業に向けて実践的な経験ができると感じたという。

「カミカワークの仕事は副業ができるところも魅力でした。仕事は雇用契約ではなく委嘱されているので、プロデューサーとしての仕事とは別に、他の仕事もできるんです。僕は当時からコーヒーの仕事もしていたし、ライターの仕事もしていたので、それを続けながら地域おこし協力隊のフードプロデューサーの仕事ができるって魅力的だと思いました。自分のコーヒーの仕事続けながら、もうひとつコーヒー屋さんで働けるんだと思って(笑)」

それから急いで応募に必要な企画書を作成し、書類選考と札幌での面接を経て、無事に合格。2019年3月に家族で上川町へ。新しい生活がスタートした。

仕事の拠点 大雪かみかわヌクモ

移住して早々、オープンが2ヶ月後に迫っていた「大雪かみかわ ヌクモ」の準備で忙しい日々を送っていたという絹張さん。ヌクモは2019年7月に無事オープンを迎えた。

ヌクモは、旧東雲小学校を改装したものだ。カフェがあるのは、建物入口すぐの体育館だったスペースで、横には空間の広さを活かしたフリースペースがあり、子ども達がのびのび走りながら遊べる。

さらに奥の空間は、プログラマやエンジニアなどから構成された「チームラボ」が企画したプログラミングが楽しめる。自分が描いた絵をプログラミングして動作を設定することで、3Dとなって動き出す仕組みで、遊びながらプログラミングを学ぶことができる。

そして館内のカフェでは、絹張さんが焙煎したコーヒー(400円)や本格的なマシンを使って淹れるカフェラテ(450円)などが味わえる。スイーツは地元上川大雪酒造の酒粕を使ったチョコチップバナナマフィン(350円)や、同じく上川町産の赤ビーツを使ったヨーグルトムース (350円)などがある。

カフェ内の注文カウンター前にはイスとテーブルもあり、ゆっくりくつろげる。ヌクモは、地域の人の憩いの場にはもちろん、観光の際に立ち寄る場としてもおすすめだ。

自然に囲まれながら、暮らしと仕事を楽しむ

はじめは知り合いも少ない中で移住したこともあり、地域おこし協力隊としての仕事の感覚を掴むまでに時間が掛かったという絹張さん。現在は仕事で関わる人をはじめ、何気なく立ち寄って知り合った飲食店の人、コーヒーのイベントを通じて知り合った人など、生活をするうえで関わった人達との関係を大切にしながら、仕事に励んでいる。

「仕事で大事にしていることは、顔を思い浮かべられる人の役に立つことです。はじめは地域おこし協力隊として上川に来ましたが、この町に住んでいる人のことをほとんど知りませんでした。でも、今は町内で関係性もできて、『この人たちが住んでいる町を良くしたい』と本気で思える。友達のためとか、知っている人のためじゃないと本気で頑張れないんです。だから、『この人のためだったら頑張れる』という人を増やしていくことが大事だと思っています」

絹張さんは妻と4歳の娘の3人家族。昔から自然が好きで、自分が育ったような、自然豊かな土地で子育てをするのが夢だったという。

ヌクモ内のカフェ運営や、キヌバリコーヒーのイベント、他にもライターの仕事や自分が興味のある仕事は、進んで引き受けている絹張さん。多忙ながらも、休日には家族や仲間と、カヌーや登山をして自然と触れあう。日々の暮らしを楽しみながら、夢に向かって真っすぐ進んでいる。

大雪かみかわ ヌクモ

住所:北海道上川郡上川町字東雲139-5

アクセス:JR上川駅より車で10分 / JR東雲駅より徒歩6分

ホームページ:http://www.daisetsuzantours.com/nukumo/

営業時間:10:00~17:30(LO 16:00)

定休日:火曜日

駐車場:01658-2-4000

キヌバリコーヒー

販売用ページ:https://kinubari.theshop.jp/

インタビュアー / ライター 加賀夕理

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中