「美味しいコーヒーを」と、想い強く  Café Hino店主 平野 一政さん

カウンター席があるカフェや喫茶店は特別感がある。目の前で挽かれるコーヒー豆の香りも格別だし、何より淹れている姿を間近で見られる。飲む前から「美味しそう」と思わせるのも、プロだからこそ成せる技だと思う。

「Café Hino」は札幌市白石区「南郷7丁目」駅から国道12号線に向かって真っすぐ進むと見えてくる、赤い外壁のお店だ。オープンは2013年2月。もう少しで7周年を迎える。現在33歳の店主の平野さんは、学生時代に自家焙煎コーヒー店で5年間腕を磨いた後に独立。店では、コーヒー豆の焙煎から抽出、販売、接客までひとりでこなしている。

平野さんが求めている味わいは、「甘さとキレがあるコーヒー」だ。コーヒーはブラックで飲んでも甘さを感じられるように、日々試行錯誤を欠かさない。

コーヒーの淹れ方も独特だ。お湯を注ぐポットを肩あたりまで高く持ち上げ、コーヒー豆が入ったネルを顔の近くにグッと近づける。この体勢でコーヒーを淹れると無駄な力が入らず、程よい湯の圧でお湯を注ぐことができるのだそうだ。まろやかな味わいのコーヒーを目指す過程でこの淹れ方にたどり着いたという。

「コーヒーの魅力は、探求が終わらないことです。抽出や焙煎は無限に工夫できるし、新しい生豆が来て袋を開ける時は、今もワクワクします。もっと美味しくする方法を、今も昔もずっと考え続けています」

「苦くないコーヒー」が原点 

平野さんは札幌市出身の地元育ち。高校卒業後は、造園会社を経営している家業を継ぐため、役立つ知識を身に付けようと江別市内の環境学を学べる大学に進学した。大学へ進学する前、運送会社で引越しの短期アルバイトをした。勤めた会社の社長が行きつけのコーヒー屋に連れて行ってくれた時、コーヒーの面白さを知ったという。

連れて来られたのは、札幌市中央区の自家焙煎コーヒー店。ほのかにコーヒーの香りが漂う店内は、ダークブラウンの木を基調とした落ち着いた印象で「大人の喫茶店」を感じさせた。社長は、苦いコーヒーが苦手な平野さんに、「ここのコーヒーは苦くない」とおすすめの味を注文してくれた。 

「『ブラックで飲んでみろよ』って社長に言われて嫌々飲んでみると、本当に苦くなくて逆に甘かったんです。コーヒーのイメージは『黒い、苦い』だったので、本当に驚きました」

今でも当時の記憶は鮮明だという平野さん。学生時代にアルバイトしようと思い立った時、自然とコーヒー屋の求人を探したという。

「その時の経験で、コーヒーって面白いなって思ったんです。カフェや喫茶店は色々ありましたが、働くなら絶対自家焙煎のコーヒー専門店が良いと思っていました。親の職人仕事をずっと見てきたので、その道のプロがいる場所で勉強したいと思ったんです」

それから、平野さんは市内の自家焙煎コーヒー店で約5年間働いた。様々な産地のコーヒー豆を飲んでいくうちに、持ち前の探求心に火が付いた。

「同じグアテマラのコーヒー豆でも、焙煎後すぐと一週間後では違う味がして、『何でだろう?』って気になって、色々自分で仮説を立てるようになったのがはじまりです。それから、他のお店のグアテマラ産コーヒーはどうなってるんだろう?って気になって、コーヒー屋をまわるようになりました。店まわりをしている時、たまたま昔社長に連れて来られたコーヒー屋にも来たんです。深煎りコーヒーを改めて飲んだら、すごく甘くて美味しかった。自分はブラックで飲んでも甘みを感じるコーヒーが好きなんだと気付きました」

お店をまわるうちに、コーヒーの「味づくり」に欠かせない重要な工程の「焙煎」に惹かれていったという。「自分が美味しいと思う味をつくってみたい」そんな思いが募り、直火のサンプルロースター(小型焙煎機)を購入した。より本格的な焙煎ができるように、仕事でつながりがあったというフジローヤルに圧力計をつけてもらった。それからは毎日3回休まずに焙煎練習を続けた。

「はじめは、豆の甘さが感じられる焙煎がなかなかできなくて、いつの間にか苦くもなく、酸っぱくもないコーヒーをつくっていました。当時は苦みと酸味の突出を抑えれば甘さが出ると考えていたので、味わいで尖がっている部分を抑えようと思っていたんです。今は全然違うんですけどね。そのうちに、キレが良くてバランスが良いコーヒーを、ひとつの形として焙煎できるようになりました」

焙煎した豆は知り合いのお店やコーヒー好きの友人に配って感想を聞いた。コーヒー豆の評判は上々で、「うちのお店に卸して欲しい」という声も次第に増えていったという。

「自分が焙煎した豆を欲しがってくれる人がいるのは嬉しかったですね。アルバイト4年目で焙煎の方向性が固まってきて、『試飲できるスペースを作って欲しい』という声もあったので、やるなら1杯ずつ提供したいと思って、店を開くことを決めました」

「コーヒーの美味しさを伝える」ために開業

「喫茶店でやっていこうと思う」そう親に打ち明けると、「庭の土地を使って良いから」と言ってくれたという。開業資金は、コーヒー屋のアルバイトに加えて、コールセンターでもがむしゃらに働き、必死で貯めた。働きながら、後の店舗となる基礎工事を友人や工務店の人に手伝ってもらいながら進めた。

 「店を建てた時、電気の配線や棚の位置、窓の配列など自分で図面を引きました。お客さんに居心地良く過ごしてもらうには、どのくらいの高さのカウンター、椅子にしたら良いかを考えて資料を調べながら。自分の扱いやすさを形にしながらも、最初はショーケースとカウンター前の棚くらいしかない状態で開業したんです。外から見て何のお店かも分からなかったので『コーヒー屋です。今日のおすすめコーヒーは~』とか書いて(笑)そんなところから始まりました」

「開業してからは、毎日が勉強でした。接客も勉強だし、店の空間づくりも勉強だし、お客さんとの関わりや経営も。いざはじめてみると知らないことばかりだったので、一個一個知らないことを勉強しながら、色々な人に支えてもらって何とかやってきました」

Café Hinoのコンセプトは、「コーヒーの美味しさを伝える」こと。もうひとつ、心に秘めている大事なコンセプトも、そっと打ち明けてくれた。

「コーヒーは楽しい時や、自分の時間が欲しい時、考え事がしたい時など、人生の色々な時に寄り添うものだと思っています。だからここは、お客さんがそういう時間を過ごせる場所にしたいと思っています。例えば、『会社の愚痴は家族に言いづらい』と思っている人が、うちの店に来て『今日こんなことがあってさ』と話せて息抜きができるような場所。自分自身、ずっとそういう場所が欲しかったんです。開業資金を貯めるために働いて、力の抜き方が分からなくなっていたから。第二の家とか、そんな大それたものではありませんが、ふと『あいつのとこ、寄って帰るか』くらいにはなりたかった。力が入っていないことに力を入れる。数年後に来ても『変わらないですね』ってお客さんから思われるお店であり続けたい。そんなお店にできたら、誰かが『帰って来られる場所』になれるんじゃないかと思っています」

創意工夫された「料理」のようなコーヒー

 Café Hinoで提供されるコーヒーは、平野さんが甘さとキレが出るように研究を重ねて焙煎した「中深煎り」がベースだが、季節によって、明るい印象の「春焼き」とコクと柔らかさが感じられる「秋焼き」に変えているという。店内で飲む時は、スッとしたキレと香り味わえるペーパードリップと、じっくりとしたコクが味わえるネルドリップから選べる。

コーヒーは中深煎りがベースだが、そのコーヒー豆に合うと思ったら、浅煎りとして出すこともあるという。平野さんは、コーヒー豆やお客さんの好みに合わせて、温度や挽き方、淹れ方を変えてコーヒーを「料理」してくれる料理人のようだ。「軽めが好き」、「酸味が苦手」という要望にも、平野さんの手に掛かれば美味しい料理となって見事にカップへ収まる。

Café Hinoのカウンター席にはそんな「料理」を楽しみたい常連さんが目立つ。コーヒーの話やたわいもない世間話を、気さくな平野さんと楽しみ、店内はいつもアットフォームな雰囲気だ。会話を通してコーヒーにもっと興味を持ってくれたら嬉しいと、平野さんは穏やかに語る。 

「ブラジルは苦い、モカは酸味が強い、マンデリンはクセがあるのが一般的ですが、苦くないブラジルもあるし、エチオピアも酸っぱいばかりじゃない。実際に飲んでもらって、その『理由』を説明すると、それが興味につながると思うんです。色々なお店でお客さんがコーヒーを飲んで、『ここのお店はなんでこんな味わいなんだろう?焙煎が違うのかな?抽出が違うのかな?』と思えたら、もっとコーヒーが楽しくなると思います」

「もっと美味しく」と、試行錯誤の日々

休日には気になるコーヒー屋さんに足を運ぶことも多いという平野さん。様々なお店を見て見識を広げつつ、仕事の気付きを習慣的にノートに書き留めている。ノートの中は、研究者さながらの仮説や実践、分析が詳細に書かれている。文章だけではなく、イメージを図に書いて、自分の思い描くコーヒーを可視化しながら日々磨いている。

そんな研究熱心な平野さんのところには、毎日のように将来自家焙煎コーヒー店を開業したい人や焙煎を練習したい人、コーヒーをもっとうまく淹れたい人が学びに来る。店の営業時間前後には、コーヒーを学びたい人たちに向けて、積極的に場を提供している。

「ここで学びたい人たちには、焙煎も抽出もなんでも勉強してほしい。コーヒー屋を飲み歩いて、本を読んで勉強して、嫌っていうほど淹れて、コーヒーを知るのが大事だと思っていますし、そのためには自分も努力をし続けることを大事にしています」

コーヒー専門店でありながら、Café Hinoの店名に「Coffee」を付けていないのは、様々なお客さんにとって来やすい「開かれた場所」であってほしいという想いがある。それでも店ではコーヒーを注文するお客さんが多いと、平野さんの声は弾む。

「来てくれるお客さんのほぼ100%の人がブラックコーヒーを注文してくれます。カフェだから、お客さんが来やすくて開かれた場所であってほしい思いと、やっぱりコーヒーが好きで来てほしい思いと両方あります。うちのお店に来て『ココア!』っていう人はほとんどいなくて(笑)」

笑った後、「それがコーヒー屋をやっているひとつの誇りでもあります」と確かに胸を張った。

[Café Hino]

住所:北海道札幌市白石区本通7北1−23

アクセス:市営地下鉄東西線「南郷7丁目駅」から徒歩約10分

Facebook:https://www.facebook.com/CafeHino/

Instagram:https://www.instagram.com/hino_cafe/(@hino_cafe)

電話番号:011-864-3434

営業時間:11:00 – 21:00(LO 20:30)

定休日:火曜日(月2回不定休あり)

駐車場:店舗裏にあり

インタビュアー、ライター:加賀夕理

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中